「そんな……どうして、あたしの……」
「本当にわからないんだね……楓」
明里さんはあたしの名前をはっきりと呼んだ。
驚く間もなく、彼女は着物の襟に手をかけ……ふわりと、軽やかにそれを脱ぎ捨てた。
その下に現れたのは、黒の忍装束。蝶結びにされた桃色の長い帯。
明里さんは重い髪飾りをつけた髪に手を差し入れる。
ずるりと落ちたかつらの下から、黒く長い三つ編みが彼女の背中に落ちた。
「……あっ!」
「お前は……!」
あたしと総司は、その姿を見て声を失う。
やっと、彼女をどこで見たのか、思い出したから。
あれは、禁門の変の日……六角獄舎の屋根で、人狼らしき男と戦っていたくノ一……!
あの時は頭巾をかぶっていたから顔は見えなかったけど、服装と体型、髪の長さから見るに、本人に間違いないだろう。
「私は、槐(えんじゅ)。岡崎一族の忍」
「槐……」
必死で忘れかけていた記憶を手繰り寄せる。
岡崎の村で一緒に訓練をした忍の中に、彼女はいたっけ?
「覚えていなくても無理はないわ。
私の家は薬師の力を持ったあなたの家より、ずっと身分が下だったもの」
自嘲気味に槐は笑う。



