炊事場でお茶を用意していると、後ろから軽やかな足音が聞こえた。
「ただいまー楓!俺にもお茶ちょうだい!」
「平助くん。お帰りなさい」
屯所の周りを見回る当番だった平助くんが帰ってきて、額から鉢巻をはずす。
池田屋で額にひどい傷を負った彼は、街の人に怖がられないように、鉢巻を巻くのが習慣となっていた。
そして彼もその怪我が原因で出動できず、屯所に残っている。
「ぷはー!うまいっ!」
さっき沸かしておいたお湯でぬるめのお茶をいれると、平助くんはそれを一気に飲み干した。
「ほんと、京の夏って蒸し暑いよね。
河原で野営してるみんなは、もっと大変なんだろうけどさ」
「そうだね。直射日光の下でただ待機してるだけなんて、ひどいよ」
総司たちが屯所を出ていって7日も経つのに、新撰組はいまだ待機を命じられているという。
「仕方ないね。
今回の戦の大将は、禁裏御守衛総督・一橋慶喜公だもん。
なんかすっごく気難しくて、尊攘派に同情的な人らしいからさ」
そうなんだ……。
長州軍が向かってきてるのがわかってるのに、こっちから動けないなんて。
「……あの人たち、暴れたりしなきゃいいけど……」
「だね……」
果たして、血の気の多い新撰組が、いつまでおとなしく待機できるものか……。



