◇◇◇
「お、おかえりー!」
「人間のくせに遅いじゃない!ふんっ、マグロ丼たべちゃおうって何回も……柚邑?」
明るすぎる異界の驪さんの異界で、2人が犬みたいに出迎えてきてくれた。
口々に喋り出して、俺の様子がおかしいことに気付いた。
「柚邑…?何かあったのか?」
「苑雛さまに何かされたの?いじめられたの…?」
顔を覗き込んでくる二人の視線から逃れたくて、無理やり声を出した。
「なんでもないよ…。あの、ちょっと霊力減って疲れちゃったから寝るね」
随分とうそが上手くなった。
女になったおかげだろうか。
「霊力使うようなことしたのか!?あんにゃろー…私の柚邑をこき使いやがって。後で文句言っちゃる」
「うえ!?柚邑はあかね様の…!?」
「あ、悪ぃ悪ぃ。誤解生むよーな発言しちゃったな、妬いたか?」
「な、何を仰ってるのか理解できませんよアカネ様!」
楽しそうにお喋りをする彼女らを突っ切って、真っ先に寝床にしてる黒庵さんの部屋へ行く。
灯りがついていく廊下に、部屋。
幻想的な風景も飛ぶほど、俺は急いていた。
何にかはわからない。
だけど、なんでかアカネたちとはいたくなかった。
アカネだけじゃない、苑雛くんも、鸞さんも。
できることならこの異界から抜けて、家に戻りたかった。
何も知らないでずっと安穏とした日々で生きていたかった。
どうしようもなく、全てから逃げたかった。