【短編】よわ虫kiss



でも、別れなくちゃならないなら、もう思い出はいらないもん。


…一緒にいたくない。


離れたくなくなるだけだから。

自分の中の「好き」を思い知って、つらくなるだけだから…



あたしは、手に持っていたボールをぎゅっと握り締める。

大和がいつも握ってるボール。

白い皮に赤い糸のボール。


大和がマウンドでいつも握り締めているボールを握りながら…

あたしはゆっくりと口を開いた。



大和に、伝えるために。



「大和…

あたし、野球部辞めるから」


外では土砂降りの雨が音を立てる。

そんな中で、あたしの声は大和に届いたのかよくわからなかったけど…


ボールを磨いていた手を止めたところを見ると、聞こえたんだと思う。


「あと…

大和の彼女も…辞めようと思う」





なんでもない風に言ったのは、軽く言わないと絶対に言えないと思ったから。




大和…


大和がどんな顔をしているのか、恐くて見られないよ。



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