【短編】よわ虫kiss



窓の外で、勢いよく雨が降る。

ばしゃばしゃと音を立てて降る雨が、やけにあたしの感情を煽ってきて耳を塞いでしまいたかった。


あたしは


きっと今日から雨が嫌いになる。


雨が降るたび、この気持ちを思い出して、どうしょうもなく切なくなるんだ。






「じゃあ今日はここまで。

明日の朝練はグランド整備から始めるから、いつもより30分早く集合すること。

以上」


キャプテンの声で、練習が終わった。

いつもよりも2時間も早い時間。


まぁ、校舎でできる練習なんてないから仕方ないんだけど、夏を控えたこの時期の雨は辛い。


甲子園予選が近づけば、近くのバッティングセンターなり室内練習場なりを借りたりするけど、まだ4月だし。

公立高校だし、きっとお金もないし。


「アヤ、今日も磨くつもり?」


どうでもいい学校の財政状態なんかを考えていたあたしに、大和が聞いてきた。


ぞろぞろと帰っていく部員を尻目に、部室に向おうとしているあたしに大和は少し呆れ顔だ。


「うん。帰ってていいよ」


「マジでー?

おまえおかしいって!

そんなに毎日毎日磨いてたらボールがつるっつるになるぞ」


「毎日同じボール磨いてたらそうなるかもね。

ご心配なく。ちゃんと汚いの選んで磨いてますから」



だって…

あたしもうすぐいなくなるんだもん。


ボールくらい、やれる事くらい、やって行きたいんだよ。

野球部のために。


…違うか。大和のために、か。


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