オケのメンバーが舞台を去り、観客の誰もいない会場を、詩月は1人見つめる。


誰もいない会場に向かい、詩月はヴァイオリンを奏でる。



プログラムの最後に弾いたホルスト作曲、惑星第4楽章「Jupiter」を弾く。




昨秋からの様々な出来事が、詩月の脳裏に次々と浮かんでは消え、消えては浮かぶ。



詩月はヴァイオリンの音色が、辛く苦しかったことも、悲しみも孤独感も洗い流していくような気がした。



誰もいないはずの舞台に、ゆっくりと靴音が近付く。


詩月は気配を感じ、演奏を止め、音のする方を振り返る。



「シヅキ」


がっしりとした筋肉質、初老の銀髪混じりの髪、頑固そうな彫りの深い顔をした長身のマエストロ、ジョルジュ。


腹にずしり響く声が詩月を呼ぶ。



「Vielen Dank fuer die
schoene Musik ! (素晴らしい音楽をありがとう)」