「両親のな。
才能とか素質っていうのは、親から子に引き継がれるものなんだろうけど、それだけではダメなんだって思う。
それに、あいつが親父さん『周桜宗月』と酷似した演奏に苦しんだ、あの何年間かも必要だったんだ」



「そうだな。周桜は、いったい何処まで翔ぶんだろうな」


「さあな。翔べるところまで、いや願う思いのままにかな」



理久は静かに言って、煙草をそっと取り出し、口に加え、安坂に煙草の箱を差し出す。



安坂は、差し出された煙草を1本抜き取り火を点けた。



向かい合う2人の紫煙がゆるやかに立ち上る。



「さっきの楽譜は?」



「正門と裏門の像、ヴァイオリンと竪琴の二重奏だそうだ」



「マジか」



「本当にあるのかもな、伝説」



「お前は試してみないのか?」