詩月は「ロマンス2番」を弾き終え、男神像を見上げる。

何処からともなく風が吹き始め、木々がさざめき蒸し暑さがピタリと収まる。

ヴァイオリンの甘く優しい調べと、竪琴の哀愁漂う調べが聴こえてくる。

詩月は空耳かと思い、耳を澄ませる。

ヴァイオリンと竪琴の心地好い二重奏が、はっきりと聴こえる。

詩月の全身をたおやかな響きが包みこむ。

寄り添い、互いの顔を見合せながら音を重ねる対の像の微笑む姿が、見上げた男神像の先に、くっきりと浮かび上がる。

思わず「あ……っ」と声を漏らした詩月は、頭の奥に呼び掛けてくる凛とした声を聞いた。

『願いは聞き届けた』

目を擦り、再び像を見上げたが、そこには竪琴を背負う男神像が建っているだけだった。