やっと笑えるようになったんだ。

やっと、自分の弾き方ができるまでになったんだ。

やっと自信を持てるようになったんだ。


理久は思い切り、叫びたい気持ちだった。



我を忘れ形振り構わず、声をあげしがみつき、泣き崩れた詩月の姿。


理久は後にも先にも、詩月のこれほどまでの乱れようは見たことがなかった。




けれど、理久は感情を抑え自身の殻にこもり、心を凍らせ、声をあげて叫ぶことも泣くこともできなかった以前よりは、マシなのかもしれないとも思う。



何が辛くて何が苦しいのか、誰にも打ち明けずに心を閉ざしていた以前の詩月よりも、ずっといいんだと思いたかった。



「詩月、歩けるか」


理久は労るように詩月の体を支えてベンチを立ち、詩月の様子に目を配りながら駅を出た。