郁子には1つ先輩がいる。

幼なじみで音楽科の学生、安坂貢だ。

安坂から詩月が執拗な苛めを受けているとも聞き、何故クールに笑えるのか? 不思議でならない。



「誰かに話して何かが解決するのか? くだらない事で潰れてしまうようなら、それまでの才能だ」



詩月なら言いそうだとも思う。




詩月が転校してきて2年経つ。


転校してきた年の秋、詩月が自分の演奏に迷い、自信喪失し、自暴自棄で奏でたショパンの別れの曲を思い出す。


見た目の華奢さからは想像もできないほど、強くなったと染々感じる。

あの頃の頼りなさも弱々しさも、感じられないほどに。


郁子は、詩月の演奏を聴くたび、いつの間にか実力に差がついてしまったと思う。



郁子は大学の合格発表後、詩月が学費全額免除の特待生だという噂も聞いた。



直接、詩月には聞いていないが、まんざらいい加減な情報ではないだろうと思う。