ベランダ越しの片想い





「咲歩」



自分の名前を呼ばれたことで、過剰なほどに肩が揺れた。

驚きのあまり声をあげそうになり、唇を噛み締める。



今、確かに咲歩って言ったわよね?

咲良、じゃなかったわよね……?



「咲歩」



まさか、わたしがここにいることに気づいているのかしら。



息を詰めて、細い呼吸を繰り返す。



……どうやらそういうわけではないらしい。



「咲歩」



どうしてそんな声で。

掠れた声でわたしの名前なんか呼ぶのよ。



何度も呼ばれたことで、ただの名前が甘く苦い響きへと変わり、胸にじわりと染みていく。



「……会いたい」



わたしの方が、────会いたいわ。