「……でも、似合いそう」
背もあるし、細身だし。着映えしそうだよね、実際。
顔立ちもイイし、締切前の無頓着な容姿から一変しそう。
「ほんと?」
「ひゃっ……!!」
後ろからの声に、思わずスーツに飛びつくほど驚いた。
息を上げて振り向くと、そこには“無頓着”バージョンのままのユキセンセ。
あー、もう。何度もびっくりさせられる。ユキセンセって、本当に足音しないんだもん!
「あ、えと……すみません。勝手に……そして、起きれたんですね……」
わたしは、スーツを握った部分を手のひらで伸ばすようにしながら、ごまかすように笑って言った。
「うん。遠くでインターホンの音聞こえてたんだけど、やっぱりすぐは起きれなくて」
「あー……じゃあわたし、あんまり役に立たなかったですね」
「なんで?」
「え……なんでって……」
目をぱちくりとしながら即答するユキセンセに、たじろぐわたしは続きがなかなか口から出ない。
じっ、と真っ直ぐに見つめられてしまうと、余計に頭の中はとっ散らかってしまって。
そしてその瞳がゆっくり細まると、また、ぽん、とセンセの手がわたしの頭に乗っかった。
「前に言ったよね。『いつでも来て』って」
ユキセンセは少し屈み気味に、わたしの顔を覗くようにして言った。
こんな扱いされてしまうと、ただでさえ免疫のないわたしはどうしていいのかわからない。
しかも、つい最近気付いた『好き』って気持ちが、余計にわたしの冷静さを奪って行く。
「あ……! えぇと、そ……そうでした……ね」
ち、近い! こんなに近くに男の人の顔があるなんて……なんか、すっごい恥ずかしい!
もちろん、目なんか合わせてられなくて、ふいっと顔を背けてしまう。
ドキドキと、全身が心臓になったかのようで。苦しいんだけど、いやじゃない。
好きな人との時間を、ただときめいて楽しむ余裕なんて、わたしにはやっぱり出来そうもない!