「おじゃまします……」


カズくんたちが言うように、本当にユキセンセは気付かず爆睡してるんだ。
オートロックだから、そんなことはないとは思うけど、泥棒とかに入られたら大変だな。

廊下を歩くと、寝室は閉められていて、書斎に使ってる部屋は空けっぱなし。
ちらりとその部屋の中が視界に入ると、大きな机に使い古しのコピーの裏に、鉛筆で描いた漫画がいっぱい。

漫画、というのかわからないけど、フリーハンドで線を引いて、コマを作って。すごくラフな絵を、ササッと描いたような。

そうか。いきなり、あの原稿用紙に描き始めるわけじゃないのか……。

小さな発見だけど、わたしの中では大きなことのようで。まだまだこの仕事の知らない部分があるんだな、と思うと、興味が湧いてくる。

は、とつい盗み見してる自分に気付くと、手にした荷物を先にリビングに置いてこようと、足早にリビングに向かった。

カチャリ、とリビングに入ると、相変わらず窓からのいい眺め。
ちょっと買い物をしたものをキッチンへと置き、ソファに自分のカバンを置こうとした。


「あ」


視線の先には、和室に掛かってる、紳士物のスーツ。
引き寄せられるように、和室に足を踏み入れ、掛けられたスーツをまじまじと見上げる。


そっか。そうだよね。まさかジーンズとかではいけないよね。パーティーらしいし。

この前言っていた『漫画賞』というもの。それは、どうやら、この業界のパーティーのようなものらしく。
一年に、その『漫画賞』とか『新人賞』とか、表彰的な内容を織り交ぜた大きな授賞式のようなものだと聞いた。

まぁ、だからといって、全然イメージが湧かなかったんだけど。

だから、こういう正装とかまで気がつかなくて。さらに、ユキセンセのスーツ姿がまた想像も出来なくて。