戸惑っていると、わたしとカズくんの間に、ぬっと影が出来る。見上げると、わたしたちを見下ろすユキセンセがそこにいた。

メガネでどんな表情なのかわからない、ということが、こういう場面ではとても怖く感じる。
ハラハラと、センセの出方を息を潜め、待っていると、わたしとカズくんの前にスッと原稿用紙が差し出された。


「青いとこ、よろしく」


ボソッと、ひとことだけ言うと、センセはくるりと踵を返して、また元の場所へと戻って行った。


「…………」
「ほんとは、ユキセンセもミキちゃんに頼もうとしてたんじゃないのかなぁ」
「え?」


センセの行動と言動が、一体どんな感情を持っているのかわからなくて困惑していたわたし。
だけど、カズくんはひとりで、くすくすと笑って言う。


「だって、この追加の量。今すぐに用意したわけじゃないと思うけど」
「でも、それはわたしにじゃなくて、カズくんに……」
「いやいや。おれに指示するんなら、こんな丁寧に青印なんてつけないって!」


……そうなの? じゃあ、本当にわたしに仕事をくれるつもりだったのかな……?


ユキセンセの分身でもあるはずの原稿(仕事)。
その、ほんの一部でも、わたしに任せてくれようとしたなら、そんなうれしいことはない。

テーブルの上の原稿用紙の枚数だけ、センセからの信頼のようなものを貰えてる気がして。わたしは単純にも、そんなことだけで、また彼の存在が大きくなっていった。