「ミキちゃん、ベタも丁寧だし、もしかしたら向いてるかも」
「『向いてる』?」
「こういう仕事。あ、あれだ。トーンも教えたら、すぐに出来そう」
「『トーン』??」


またわかんない言葉が出てきた。


「センセっ。ミキちゃん、トーンやってくれるって!」


へ?! な、なになに?! カズくん、ちょっと! わたしはまだなにも……!


あわあわとカズくんを見るだけで、もう遅いかと、なにも言えずに動揺だけしていた。


「おお。ミキちゃん、優しいー」


カズくんの声に反応したのは、ユキセンセじゃなくて、ヨシさん。
肝心なセンセからは、まだなにもアクションがない。にも関わらず、カズくんはいそいそと、なにやら画材のようなものをガサガサと探している。

いつもよりも、ユキセンセの返しが遅い気がして、一気に不安になっていく。

これ以上、こんな素人が、大事な仕事に介入していったら困るよね。
カズくんの言ってたのがどんな内容かはわかんないけど、もしかしたら軽い気持ちで踏み入れたらいけないトコなのかも……。


手元の塗りかけの原稿を見つめていると、カズくんが笑顔でペンのようなものとB4サイズの袋を数枚持ってきた。


「えーとね……これがー」
「あ、あの、カズくん。待って。ユキセンセが――」


目の前で、また見たことのないものを広げながら、カズくんが意気揚々と説明し始める。わたしは、ユキセンセが気になってそれどころじゃない。