「さて、と。もーカズたち来ちゃうかな」


そういうさりげない行動の裏には、どんな想いが込められているんだろう。ていうか、裏もなにも、ないのかな。
ドライヤーのコードをぐるぐると巻きつけながら俯いていると、いつの間にか後ろに回っていたユキセンセ。


「パーマ?」


ひとつに束ねているわたしの毛束を手に、そうひとこと。
触れられているせいで、重いはずの頭が軽く感じる。なんだか心も身体もくすぐったくて、わたしはさらに俯いた。


「……いえ。くせ毛なだけで……」
「くせ毛。オレと一緒だね」


締切前なのに、こんなにも明るく、積極的に話し掛けてくるセンセって、たぶん初めて。
今日はちゃんと寝たのかな。で、お風呂も入って、気分がいいからこんなふうに……。

わたしの視線は手にあるドライヤーのみ。
センセといると、やけに緊張して、視界にも支障をきたしてしまう。

わたしの髪を毛先まで慈しむようにゆっくりと滑らせ、するん、と彼の手から落ちると今度は手が軽くなった。


「ミキちゃん、髪下ろしても可愛いよね、きっと」


さすがに『なにを言うの』と振り返ると、ドライヤーを手に、わたしににこりと微笑んでるユキセンセが立っていて。
からかってるようにも見えなくて、でも、そんな勿体ない言葉を素直にも受け入れられないでいると、彼はそのままドライヤーを戻しに去ってしまった。