バクバクと騒ぐ心臓を抑え続け、肩を上げて固まったわたしに、ユキセンセはなんにも気にしない様子で話し掛けてくる。


「また、しばらくゆっくり入浴なんて出来なさそうだから。今のうちに、ってね」
「そ、そそそうですかっ」
「? どうしたの?」


「どうしたの」って、あどけない声で言うけど! センセ、上、着てないんですってば!
いや、男の人は、別に気にならないのかもしれない。でも! やっぱりわたしは目のやり場に困るっ。


「いえ! じゃあわたし、先に――」


そそくさと逃げるように立ち去ろうとして、目の前のドアノブに手を伸ばそうとした。
すると、その腕にセンセの長い指が絡み、動きを制止させられる。

手の甲に薄らと浮かび上がる中手骨のラインが、女性とは違ってなぜかドキリとさせられる。わたしのウデにしっかりとまわっている指が、センセの手の大きさや指の長さを証明しているよう。

お風呂上がりだからか、熱く感じる手。そして、ゆっくりとその手を辿るようにして、彼の顔を窺った。

ぱちっと目が合うと、ふ、っと眉尻を下げて笑った。


「ね。お願い、してもいい?」
「お……ねがい……?」


まだ掴まれてる手。その先にちらりと視界に映るのは、細身の身体。
この状況で、『お願い』とかなんて、聞ける余裕も、気持ちもない――――普通なら。

だけど、わたしの中に“拒否反応”は起こらなくて、ただ、得体のしれない高揚感がわたしの全身を駆け巡る。