あの夜から、約10日後の今日まで、わたしはユキセンセと会ってない。

それも当然のことで。なぜなら、わたしは未だに彼の連絡先を知らないから。
知ってるのは、住んでいる場所だけ。

「いつでも来て」とは言われても、いきなりなんの用事もないのに行くのはやっぱりヘンだし、理由がみつからないし。
ただ――。この数日間は、ずっとユキセンセのことが頭から離れなかった。だから、なんだか毎日会ってたような気さえしてしまう。


3度目の訪問にも関わらず、緊張してるわたしは、落ち着かなくて前髪に何度も触れながらエレベーターを降りた。

「おじゃまします」と、控えめに言いながら足を踏み入れる。
毎回のことながら、なんの反応もなく。でも、リビングまで届かない声に、ユキセンセは仕事中ということを考えれば、なんの不思議もない。

いつしか無意識に、廊下は足音を立てないように、買い物袋もガサガサとならないように。なるべく静かにするクセがついてしまっていた。

あと数歩でリビングのドア。そう思った矢先に、ガチャッと右側から大きく感じられる音に、声を上げて反対側の壁に飛び退いた。


「わっ……!!」


両手を胸元にあてて目を見開くと、そこに立ってたのは、またも上半身ハダカのユキセンセだ。


「あ、ごめん。びっくりさせて」
「いっ、いえ! だだだだ大丈夫ですからっ! こっちこそ、すみません!」


すぐに顔を横に向けたから、一瞬しか見なかったけど。
……でも、スウェットは履いてたっぽかったから、まだ良かった……。