カズくんがそう言いながら開けた先は、リビングだ。


リビングで仕事してるの? 他にもたくさん部屋がありそうなのに?


そんな疑問で頭がいっぱいになりつつも、カズくんの後に続いてリビングへと足を踏み入れた。
広い空間の右側に、ソファと大きなテレビ。そして左にはキッチンとテーブルが置かれていて、その方向から声がする。


「あー、おつかれさま。もうそんな時間?」
「ユキセンセ、集中すると、時間関係ないスもんね」


カズくんに「ユキセンセ」と呼ばれた人。
その人は、大きな背もたれの椅子に片膝を立て、右手でペンタブを握ったままパソコンの画面と睨めっこをしている。

しわしわのTシャツ、グレーのスウェット。四角い黒縁メガネに、わさわさと掛かってる前髪。それらが邪魔して、彼の容貌はわたしの場所から確認できない。

あと見てわかることは……キーボードの側にある、空っぽのマグカップ。


――すごい。まるで、絵に描いたような人……ていうか、この人が“絵を描く人”なんだけど。
漫画家さんって、本当にこういう感じなんだ。


「えーと。とりあえず2カ月くらい、アキさんの代わりしてくれる、向井美希さん。連れてきましたよ」
「あっ、よ、よろしくお願いします……」


カズくんがショルダーバックをドサリと床において、わたしを紹介してくれた。
それに合わせてぺこりと頭を下げ、挨拶をする。