「地下鉄の駅でいいんだっけ?」


スーパーを出てすぐに、センセが言った。


「ほ、ほんとに大丈夫ですか? 病み上がりで、しかも仕事明けなのに」


確かにもう、早い時間とは言えないけど。でも、街灯も比較的多い道を通るし、こういう時間に出歩いたことが全くないわけでもないから。

だから、わたしは仕事を終えたばかりの彼に、遠慮してそう言った。


「そんなにふらついて歩いてる? オレ」
「いえ、そういうわけじゃ――――」


手を大きく振って、否定したときだった。
空いたもう片方の手に、突然温もりを感じた。


「これで大丈夫」


すっぽりとくるまれてしまいそうな、繋がる手。それを確認して、もう一度ユキセンセを見上げると、にっこりとただ微笑んでるだけ。


な、なんで手を握られてるの? そもそも、わたしはなぜ「居て」って言われたんだっけ? ああ、生姜湯のこと、聞きたかったのかな? いや、でも、違う気が!

そもそも、あのキスのことだってわけがわかんない。
一体、ユキセンセって、なにを考えてるの――?!


振りほどく勇気もない、問い質す勇気なんてもっとない。
完全に彼のペースに飲み込まれているわたしは、冷静さを欠いた状態で必死に考える。