『――はい』
「あ、おれッス」
『ああ』


まるで合言葉のような短い会話をしたかと思えば、すぐに目の前のドアが自動で開いた。


「こっち」


そう案内されエントランスを抜けて、ずっと奥のエレベーターに乗ると、カズくんが7階のボタンを押した。

やけに静まり返ったエレベーター内で、もうすぐ7階に着くと思ったとき。


「その、ちょっと異様な雰囲気に感じるかもだけど、気にしないでね」
「はぁ……」


やっぱり、そういうピリピリした空気……なんだよね、きっと。


ある程度の話はメグから聞いてた私は、カズくんの言葉の意味がなんとなくわかる。
だけど、気の抜けた返事しか出来ないまま、とうとう7階についてしまった。

ピンポン、と鳴らすと同時に、すでに解錠されているのがいつものことなのか、カズくんが返答が来る前に玄関を開けた。


「こんにちはー」


カズくんが一方的に挨拶をし、そのまま靴を脱いでいく。


えっ、と……これは……わたしも上がっていいのかな。


おどおどとその場で戸惑っていると、カズくんが廊下の中ほどで気付いたらしく、「行こう」と声を掛けてくれたから、わたしは靴を脱いだ。

廊下を歩いて見てみた感じは、ファミリー向けの普通のマンションのよう。
部屋数は正確にはわからないけど、3、4部屋あるんじゃないかな……。


あまりじろじろと見るのは失礼と思いつつ、それでも目があちこちから情報を仕入れようと動いてしまう。
でも、ガチャリというドアノブの音で、その視線も一点に定まった。


「おつかれさまです」