ホントのホントの最後の方は、カズくんでもヨシさんでも出来ることがないみたい。

だけど、いつも二人は先に寝るでもなく、パソコンを弄りながら静かにユキセンセを待つようだ。
わたしもそんな二人と同じように、静かに息をするだけ。

ユキセンセを、ただ、見つめて。


このラストスパートに、じっと彼を見つめると、同じような仕事の動きも些細な違いが見受けられる。

ペンタブレットの動きが、より細やかになっていたり、首を左右に傾げてストレッチをするようになったり。センセの顔が、パソコンのディスプレイに近くなっていたり。

そして、前髪の隙間から覗く目が疲れているはずなのに、ここにきて、一番輝いて見える。

その目は、きっとカズくんたちからは見えない。
キッチン(ここ)からでしか見えない、彼の一面だ。


気付いたら、わたしは彼の漫画同様、彼自身に吸い込まれるように集中していた。
漫画と違って、なにか動きがあったり、話をしたりしているわけじゃない。

むしろ全くの逆で。
ほとんど動かないし、わたしの方を見もしないし。声だって、さっき頼まれたとき以来聞いていない。

それなのに、なんでわたしは、こんなにも目が離せなくなってるんだろう……?


頭でそこまで冷静に分析しててもなお、視点はずっとセンセの方へ。
ずっと視線を送り続けてることがバレてしまう、と思いながら、動けないわたし。

そして、懸念していたことが起きてしまった。

不意にユキセンセが数センチ頭を上げ、わたしの方を見たのだ。
当然、しっかりと視線は交錯して、わたしも彼も、目を逸らすことはしなかった。

目が合っただけなのに、ドキッと大きく胸が高鳴る。

それだけでかなりのものなのに、その目がわたしに向かって柔らかく微笑んだから――。

高鳴る鼓動が、逆に今度は、一瞬止まりそうになった。