メグに、昨日のこと、話してみようかな……。
メグならわたしよりも、当然色々経験してるだろうし! あのキスの意味とか、センセの考えてることとか、わたしはどうしたらいいのかとか、アドバイスみたいなの貰えそう!


「あの」
『そーいや、見たことある? そのマンガ家サンの漫画!』
「えっ」


意を決して出した言葉が、上手いことメグと重なって。
外にいるメグにはやっぱり聞こえてなんかいないようで、結局わたしは自分の話を飲み込んだ。


「あー……ない、なぁ」
『ミキ、今みたいに空いた時間あるなら、見せてもらえば? 本人の家なんだからないってことないでしょ』


ユキセンセの漫画、かぁ。
昨日原稿を間近にはみたけど、ページの順番もバラバラだし、セリフは空白だし。

でも、バスケットらしきシーンとかあったなぁ。
男の人向けだろうし、スポーツ漫画だったりするのかな?


『あ! じゃあ、時間だから! 今度会ったらお礼するからねっ』


一方的にそう言って、メグは電話を切った。
やれやれと、「はぁ」と軽い溜め息をついたわたしは、部屋を出た。


そういえば、確かにユキセンセの漫画、って完成したものをまだ見てないし、もっと言ったら、ユキセンセの名前を知らない。
ペンネームも、本名も。

ただ、みんなが『ユキセンセ』って呼ぶから、わたしもそう呼んでるだけで。
当然、『ユキ』がつく名前なわけだよね。

あれ……。わたしって、本当になんにも知らない。


閉めた扉の取っ手を握ったまま、また、わけのわからないもの淋しさを感じる。


なんか、わたし、ヘンだ……。