シーツを洗濯して、わたしがリビングにそーっと近づき覗いてみると、センセは何事もなかったかのように机に向かっていた。

変わらないその姿に、ホッと胸を撫で下ろしつつ、でもどこか微妙な想いにもなる。
わたしは極力気付かれないように、リビングのドアを開けた。

気付いてるのか、気付いていないのか。
ユキセンセは、仕事のスイッチが入ると途端に集中力が高まる人のようだから。

わたしの気配に気付いたとしても、わざわざこっちを見て、なにか声を掛けるなんてことはしない。

そんな対応には、この何日かで学んだはずなのに。
なんか、わたしがいないように振る舞われてる感じに、胸が痛くなるのはなんなんだろう。

自身の妙な感じに首を捻り、わたしは自分の持ち場――キッチンへと入る。


……あ。薬、飲んでくれたんだ。


開封済みの薬の箱を見て、口元を緩ませた。
そっとユキセンセに視線を送ってみても、相変わらずわたしになんかお構いなし。なにやら難しい顔をして、原稿用紙を動かしてはペンを走らせてる。

シャッシャッ、と耳に心地いい鉛筆の音。

その音と、メガネでハッキリは見えないけど、センセの顔色で、風邪はだいぶ良くなったのだと解釈した。


「お疲れ様です。ここに、カップ置いておきますね」


仕事の邪魔にならない位置に、邪魔にならないように小声で言った。

……まぁ、どんなことをしても、ペンを持った彼の耳には届かないんだろうけど。

――――あれ?