だとしたら……だとしたら、そうだ。きっと、熱のせいだ。
意識がまだはっきりしてなくて、寝ぼけてたとかそういう理由なんだ。

そうじゃなきゃ、おかしいもん。
わたしなんかに、キスしてくるなんて。


なんとか思考が纏まったら、わたしはこの出来事を払しょくするかのように洗い物を始めた。

ちょうど片付けを終えて、最後に綺麗に水滴を拭きとっていたところに、ガチャリとドアの開く音が聞こえた。


「あ……」


トレイを持ち、声を出したユキセンセに視線を向けたけど、つい、顔を逸らしてしまう。


ああっ。これじゃあ思い切り、経験もなくて『意識してます』って言ってるようなものじゃない!
もっと冷静に、普段通りにしなきゃ! 


「あ! た、食べられました?!」
「え? あ、うん……」
「じゃあ、ちょっとは元気になれたんですね! よかったです!」


今までこんなに声を張って話したことなんかないのに、不自然なほど、元気にはきはきと喋るわたしを、センセはぽかんと見てるように感じる。

ヘンに思われるってわかってても、やっぱり大した経験もしたことないわたしには超難題。
いますぐにでもメグにヘルプを頼みたいくらいだけど、そんなことも叶うはずがない。

だから、わたしは間を作らないように喋り続けて、忙しいふりをするしか方法が見つからない。


「あっ。あの、薬! 薬、買ってきましたから! お水と置いておくのでどうぞ飲んで下さい!」
「あー……薬は……」
「大丈夫だと思います」
「――え?」