…………なに。今の。


バタン! と後ろ手でドアを閉め、廊下を見つめながら立ち尽くす。静かな廊下には、穏やかな夕陽がリビングの方向から射し込んでいる。

その物静かさが、余計に自分の早鐘を打つ胸の音を大きくさせる。

ドアに触れていた右手を、ゆっくりと動かした。
そして次に触れる先は、自分の口――。


き……キス……された、よね? 今……。
え? ……なんで?


確かに残る感触を確かめ、目だけが忙しなく辺りを映す。
なにをみても、落ち着くわけないんだけど。

反芻しながら、ふらりふらりと廊下を歩き進める。

まだ少し片付けの残っているキッチンへと入ると、なかなか手が動かずに、ボーっとし続けていた。


「どういうこと……」


何度も何度も今さっきの出来事を頭で再生しては、納得のいく理由が思いつかない。


ユキセンセは、外国育ちなわけでもないだろうし、いたずらにそういうことをするタイプにも思えなかったけど……。
わたしの思い違いなの? センセって、大人だけどやけに純粋に感じてたけど、そうじゃないの?

でも……でも――――。


『幻滅されたくない……っていうか』。
――仕事に対して、すごく真摯で。


『うれしかった』。
――人の言葉に素直に喜んで、笑ってた。


『……りんご』。
――あんなふうな態度が、全部計算……? だ、なんて、やっぱり思えない。