風邪によさそうなもの。

根菜類、しょうが、ねぎ、うどん……りんご。
それらを買い足して、わたしはすぐにマンションへと戻った。


「あ……ただいま……です」


未だになんて言って入るのが自然なのか、わかんない。
気恥かしそうに口ごもりながら言って、そそくさとキッチンへ向かう。

リビングにはユキセンセの姿はなくて、まだ寝てるんだ、と肩の力を抜いてりんごを手にした。


「あ、おかえり」
「!!」


すっかり油断したところに聞こえた声に、またわたしの体は硬直する。
と、同時に、手の中のりんごがキッチンの上にゴロンと転がった。


「……驚かせちゃった?」


そのりんごの動きを目で追って、苦笑するようにセンセが言う。


「ちょ、ちょっとだけ……」


今気付いたけど、ユキセンセって足音あんまりさせないよね。なんか猫みたい。


胸のあたりを、ぎゅ、と握り、『落ち着け落ち着け』と自分に言い聞かせて平静を装う。


「起きてて大丈夫なんですか……?」
「いや……トイレに」
「あ……そうですか……。ああ、なにか食べれますか? りんごは見ての通りありますけど……」


ぎこちない笑顔を向けたわたしに、彼は静かに微笑んだ。
そして、頭を少しかきながら、ぼそっと答える。


「……うん。食べる」


その返事がなんだかこどものようで。見た目は大きいのに、可愛く見えるのはなぜだろう。
こういう感覚、どっかで……。