「わわ、わたし! ちょっと、買い物行ってきます……っ!」
「え? あー……鍵、玄関にあるから持っていっていーよ」


わたしの慌てた理由がきっと、彼にはさっぱり伝わってないんだと思う。
そのまま動く気配もないセンセが、それを証明してる気がして。

わたしは絶対に振り向かないまま、部屋を出ようとドアに手を掛けた。


「……なにか、食べたいものはありますか……?」
「……え」
「わたしが出来ることは、それくらいですから」


背中越しにぽつりと言葉を交わす。
センセの声の感じからすると、顔は見えないけど、驚いてる様子に感じる。

そのまま部屋を出ず、彼の返事を待った。
前回までの経験から、ユキセンセは、もうちょっとしたら、答えをくれるはずだから。


「……りんご」


自分の思っていたタイミングで、やっぱりセンセは返事をくれた。
そんな小さなことで、自然と笑ってしまう。


「わかりました。……あと……すぐ、着替えた方がいいと思います」


そう言い残したわたしは、鍵を握って玄関を出た。