「さ……やらなきゃ」


支給された黒いペン。それも、いろんな太さのペンが数本。

わたしが指示された仕事は、“ベタ塗り”というやつらしい。聞くと、ものすごい単純作業のようで、印がつけられて囲われてる部分を黒く塗りつぶす作業。


これくらいなら、わたしにも出来そう。

ほっとして、キャップをぽん、と外す。
ぬり絵と同じ感覚なはず。はみ出したりしなければいいだけ。


頭でそう思ってるのに、いざ、ユキセンセの原稿にペンを置こうとすると、緊張してしまっていた。


「わたしの出来ることなんか限られてるんだから……!」


ひと筆目というものは、どんなときでも同じように神経をつかう。
小学校のときの書道とか、手紙とか、新しいノートとか。


でも、今はそれ以上に。こんなに慎重にペンを持つなんてことが初めてだ。


『なにをそんなに』、と。自分で自分を嘲笑ってしまう。

それでもどうしようもないわたしは、一度大きく息を吐いてから、なんとか作業に取り掛かった。