「このバツ印のとこを全部お願い」


渡された数枚の原稿用紙を受け取ったわたしは、カズくんの席に着いた。
今、手渡されたときの、センセの手を思い出して顔が熱くなる。

だって、ついさっき、あの手がわたしに――――……。


「ごめんね。少し寝たらよくなると思うから」
「はっ、はい! 全然! 気にしないでくださいっ」


すぐ隣に立つユキセンセを見上げると、熱のせいか、すごくその笑顔がセクシーで。
ますますわたしの体温はあがってく。

そんなわたしに気付いてなんかいないと思うユキセンセは、ポンポンと、わたしの頭に手を置いて寝室に行ってしまった。


「……っはー……」


な、なんかおかしい……。
2度目のバイトのはずなのに、回数を重ねてるはずなのに。

やけに緊張するのは、なんで?


センセが去って行ったリビングの扉を見つめて、まだドクドクしてる心音の中、不思議に思う。


やっぱり、さっき急に後ろから抱きしめられたから――かな。
あれってなんだったんだろう。一般的に世の中で、普通にあり得る出来ごとなの?

でも、あのあとは普通だったし、あれは熱も手伝って、咄嗟にしちゃったことなのかな……。

センセって、ちょっと変わった感じするし、こういうことがあっても変じゃないかも、って思っちゃう。

ほら、この間一緒に取材に行ったときも。

『上手く出来ない気がするんだよね』とか言ってたし。人間関係、得意じゃないような感じだったし。