――なんて、わたしはなにを勝手に自分の中で解釈して、ぺらぺらと話してるんだろう。
相手はまだ数回しか会ってない、体調不良の、歳上の人なのに。

ほら、ユキセンセ、困ってるんじゃない。
ずっとこっち見たまま、なんにも言わないし。

わたしなんて、ただ“メシスタント”してればいいんだから、余計な口出ししちゃだめじゃない。


「あの。ほら、なんて言ったらいいか……その、最大限、センセの力になりますから! わたし。一緒に乗り切りましょう!」


ふたりきりで、真っ直ぐ見つめられて困惑したわたし。
でも、今言った言葉は、義理とかこの場しのぎとかじゃない。本心の言葉。


その言葉を受けてもなお、ユキセンセは、じっとわたしを見たままで。
気まずくなったわたしは、つらつらとその間を埋めるように言葉を繋げていく。


「あっ……一応、熱測ります? それによって熱さましとか、薬買ってきますよ」


独り言のように言いながら、キッチンを出て薬箱をきょろきょろと探す。
すると、カララ、とキャスターの音がして、顔だけ振り向くとユキセンセが後ろに立っていた。

すぐ目の前の備え付けの扉から、スッと体温計を手にしたセンセが、なんだか近い。
でも、あからさまに逃げたりも出来ないし、壁に挟まれてるからどのみち避けられなさそうだ。

身を小さくして、触れそうな距離に立つ後ろのユキセンセをゆっくりと見上げた。

わたしを見下ろす双眼と視線がぶつかったら、ボソッとセンセが言う。


「初めてかも」


同じ方向を向いているから、あまり表情が読み取れない。
少し頬が赤く見える気もするけど、でもそうだとしても、それは本当に熱が上がってきたからかもしれない。

戸惑いながら、言葉を詰まらせたわたし。


「――――え……」
「普通、『頑張って』とか『無理しないで』とか。だから、『一緒に』とか『力になる』って、なんか――――」


頭上に聞こえる色っぽい吐息も、きっと風邪のせい。
だけど、男の人のそんな艶っぽい声を間近で聞いたことなんか経験上一切ないから。


「うれしかった」


だから、もう、心臓も頭もぐちゃぐちゃで。
極度の緊張を、さらに上乗せする出来ごとなんか、全く予想もつかなくて――。


「甘えて……いい?」


そのユキセンセの言葉は、背中に伝わるセンセの体温と、わたしに回されるしなやかな腕と同時に聞こえてきた。