やっぱり、ちょっとつらそうな気がする。
少し呼吸も速い気がするし……顔は赤くないけど、微熱くらいはあるんじゃないのかな。
エアコンも前より効いてない気もするってことは、寒い、とか?


なんとなくそう感じたわたしは、ぽつりと尋ねた。


「ユキセンセ、大丈夫ですか……?」


すると、仕事中はほとんど反応がないはずのユキセンセが手を止め、驚いたように目を丸くしてわたしを見た。
きっと、集中力が低下してるから、わたしの声も届きやすいのかもしれない。


「……え。なんで……」
「あ……いえ、なんとなく……」


ぼさぼさの前髪から覗く黒い目が、正面からわたしを見据える。
そのメガネ越しに見える瞳を見つめ返して、わたしは続けた。


「咳、してたみたいだし……座っててもなんだかちょっと苦しそうかな……? と」


……わたしの思い過ごしだったのかな。
固まったまま動かず、なにも言わずのセンセを見て自信がなくなる。

空回った心配がなんだか恥ずかしくて、笑ってその場をやり過ごそうとしたときに、彼が薄い唇を開いた。


「そんな、わかりやすい? オレ……」
「――――え?」


伏し目がちになってたわたしは、思わず顔を上げた。
そこには、動揺したような顔でメガネを押し上げるユキセンセ。


「ちょっと……いや、実は結構、キツイ……かも」
「あ……やっぱり」
「カズたちに気付かれるかな、やっぱ」


両手をだらんと肘かけから下げて、大きな背もたれに体を預けながら、天井を仰いで呟いた。