……風邪、ひいたのかな。ただ、むせたとかじゃない気がするし。こんな締め切り前に、大丈夫なのかな。


奥のエレベーター前に立って、来るのを待つ。その間も、考えてたことはユキセンセの体調のこと。
『7』のボタンを押すのも無意識で、ぐるぐるといろんなことを考える。


大したことなければいいけど、もしそうじゃなかったら?
高熱とかあって、意識も朦朧としていたりしたら。

仕事をしてる人がそういう状況になれば、安易に休めない人もいるだろうし、なかなか代わりを務めるっていうのは難しいことかもしれない。でも、一日くらい、きっと出来なくはない。

けど、ユキセンセの仕事はどうだろう。

カズくんやヨシさんの出来ることはたくさんあるんだろうけど、でも、結局ユキセンセがいないことには出来ないことなんじゃないのかな。

自己管理が足りなかった、と言われたらそれまでかもしれない。でも、現実にそうなってしまったのなら、仕方ない。

こういうとき、一番つらいのは本人のはず――。


足元を見て固まっていると、気付けば開いたエレベーターの扉が戻ってくるところで、慌ててわたしは飛び降りた。

そのまま玄関に入り、廊下を抜けてリビングへと足を向ける。


「……お疲れさまです」


リビングのドアを開きながら、控えめにそう言って入ると、いつもの席にいつものように座って仕事をしているユキセンセが見えた。


「……うん」


ちらっと目だけをわたしに向けた彼は、そうひとことだけ。
買い物袋をキッチンに運びながら、わたしの視線はずっとユキセンセに向かってた。