「……いや。たぶん、そんな大それたものじゃなくて。ほら、だって、ミキちゃんとはこうしていられるわけだし」
「あ」


確かに。厳密に言ったら当てはまらないのかな。


今度は白いシャツを辿って、シャープな顎から上へと視線を移動させる。
センセの顔を見たら、真面目な表情をしていた。


「なんていうのかな……こう、上手く出来ない気がするんだよね」
「?」
「相手との距離感て言うか」
「距離感……」


なんかそれちょっとわかる気もする。ユキセンセがそうだ、とかじゃなくて、“自分”が。
わたしも、人付き合い得意じゃないし、でも誰かに必要とされたくて、どうやってその距離を埋めたらいいのかわかんない気がする。


「あ! オレは大丈夫なつもりだったけど、ミキちゃんは違った?」
「え?」
「いや、オレ、困らせることしたりしてない?」


いつしかわたしたちは立ち止まって、道端で言葉を交わしてた。


「全然大丈夫ですよ」


それはお世辞とか気を遣ってとかじゃなくて、本当のこと。
その言葉を受けたセンセは、なにも言わなかったけど、すごくうれしそうな顔をした気がした。

再び歩き出したときに、黒いスニーカーから上に目が向けられない。
そして、その靴が、さっきより近く感じるのはなんでだろう。