仕事明けのユキセンセは、当然Tシャツにスウェットなんて格好じゃないわけで。
太すぎず細すぎずのチノパンが、一層スタイルよく見えて、白いシャツにネイビーのカーディガンを着ているだけなのに決まって見える。

そして、あの無精ヒゲも今は綺麗に無くなって。あのぼさぼさとしていた髪も自然に整えて。
唯一、仕事のときと同じなのは、スクエアの黒縁メガネだけ。

どこからどうみても、イケてるメンズに属する気がするこの人と、並んで歩くだけでも緊張してしまうわたし。
ドキドキの原因がありすぎて、収拾がつかないわけだ。


だけど、原因はユキセンセだけじゃない。きっと。

わたしの経験値が低いっていうのも大きな要因だと思うし……。そのために、ほんの些細なことですら、わたしにとっては大きな事件になる、という話。


今まで“彼氏”って呼べるほどの人なんていなかったし。
告白されて付き合うことになっても、結局すぐにわたしが振られてるし。

まぁ、その理由も、たぶんわたしがつまんなくて、必要ない存在だったからだと思うし……。


どんどんと卑屈な思考に飲み込まれていって、視線が見る見る下がっていく。

すると、俯いた先に、白いステッチの入った黒いスニーカー。

その靴の主の存在を思い出して、ハッと顔を上げた。


「……あ」
「うん?」
「……いえ……あの、中に入らなくても……いいんですか?」