「……あ」


ス―っとエアコンの冷風が足元を流れたのに気付く。


ユキセンセ、あのまんまじゃ、さすがに寒いよね。でもエアコン切ったら切ったで暑くて寝苦しいかもしれないし。


きょろきょろとソファ付近を見ても、求めてるものがない。わたしは与えられてた部屋に、初めて入ると、肌掛けを一枚両手で包み込むようにして運んだ。

それをリビングで、ピクリとも動かないユキセンセにふわりと掛ける。


「……ほんと、死んでるみたい」


そんな縁起でもない独り言を呟いて、なんとなくユキセンセの目線に膝を折ってみた。

立っているときや、ユキセンセが座って作業してるときの距離よりも、ずっと近い。

横になると彼の前髪も横に流れていて、その割れ目から覗く凛々しい眉と、意外にも黒くびっしりと並んでいた長い睫毛。
心地よさそうな寝息を静かに立てる鼻と、薄い唇。

メガネを外し、瞼を閉じたユキセンセは、なんだか別人のよう。


この無造作に伸びた無精ヒゲを綺麗にしたら、さらに印象が変わるんじゃないかな。


「――――ん」
「!!」


口元に視線を向けていたら、その唇が微かに開いて吐息を漏らす。
タイミングがタイミングなだけに、心底驚いて、思わず尻もちをついてしまった。


お、起きたらどうしよう……! こ、こんな恰好で、この距離で! なんて言い訳したら…………。


バクバクと跳ね上がる心臓と、勝手に熱くなる顔。
見開いた目に映るユキセンセは、今はもう全く動かず、なにも言わず。

完全に落ちている、と、ほっと胸を撫で下ろし、そーっとその場に立った。
もう全く動く様子も見せないセンセの姿に、ここ数日間、彼は全力だったのだと再確認する。


「なんか……すごい人……」


たった3日。出会ってそれしか経ってないのに、わたしの記憶には、たくさんのユキセンセの映像が残ってる。

気付いたら、大きな体で小さく丸まるように眠ってるユキセンセ。

そのカッコが、なんだか可愛く見えてしまって。しばらく動けないでいたわたしを、その後すぐきた集配のインターホン音が動かした。