「ミキはさ。もっと自信持ちなよ」
「……なにに?」


乾いた笑いを漏らしながら、今度はわたしが先を行く。

向井美希(むかいみき)、もうすぐ20歳。そんなわたしに、これと言って長所なんか見当たらない。……たぶん、短所という短所もない、せめて平々凡々な人間だと思ってる。


「えー? ミキは私にないもの持ってるよ?」
「そんなの、今まで感じたことないし」
「お弁当! ミキ、料理得意じゃん」


タンタンッとわたしを追いかけるように、軽快な足音を鳴らしながらメグは続ける。


「私なんて、一人暮らししてても、やんないよ? って、自慢することじゃないか」
「……『得意』なんかじゃないよ。ただ、最低限出来るだけで」
「弟の面倒とかも今まで結構みてきたんでしょ? それも私は出来ないし」
「手のかからない弟だったから。それにもう6歳だし」


あと数段で、目的の階に到着。
その瞬間に、メグがスカートにも関わらず一段飛ばしで昇り切ると、わたしの目の前に立った。

もともとわたしの方が身長も低いから、メグを見上げるのは結構首が痛い。

見上げた先に映るメグは、わたしに向かって両手を合わせて懇願するような目をしていた。


「ど、どうし――」
「そんなミキのウデを見込んで、お願いっ」
「え」


頭を下げるメグを、ぽかんと眺めながら目を瞬(しばた)かせる。


わたしの『ウデを見込んで』だなんて、一体どんな『お願い』なんだろうか……。
さっきも自己確認したけど、わたしにこれといって特技や即戦力になるようなもの、なにもないし。


わたしが動かずに棒立ちしていると、メグがわたしのところまでまた階段を下りてくる。
そして、真横に並ぶと、申し訳なさそうにこう言った。