「……大丈夫?」


声を押し殺して、一粒、また一粒と頬を伝う涙。
俯いて、手の甲で目元を抑えて。肩を小刻みに震わせながら、わたしは泣いた。


「だ……いじょぶ……です。ごめ、なさい……」


わたしが泣くなんて、こんなヘンな光景ってない。
それでも雪生は、笑うでもなく、困るでもなく。ただただ、優しい手つきでわたしの頭を撫でてくれる。


「ぐす」っとようやく涙を引っ込めて。
せっかく心をこめて書いたファンの手紙を、涙で汚してしまわないように。それをそっと雪生へと返すと、手に残っていた定期が視界に入った。


「……あ」


コレ……秋生さんの。
そうだよ。今日ここにきた、一番の目的を達成してないじゃない。

あれだけ聞くのが怖かったけど、今はなんか平気かもしれない。

それはたぶん、今見たファンレターに力を貰えたからだ。
『自信』を少し、つけてくれたから。


「ああ。アキの忘れモンだね。預かっ」
「秋生さんて、雪生のなに?」


嫉妬深い女みたいだ。
いや、それは正解で、まさにそれなんだ。今のわたしって。

もっと違う聞き方があったはずなのに、そんなふうにしか口にできなかった。

目を丸くした雪生は、定期を受け取る手前で固まってしまう。
わたしが真剣な面持ちで、そんなことを聞いたから驚くのも当然だ。