受話器を耳にあて、「はい」と答えたあとの雪生を見ると、どうやら親しい人らしい。
【解錠】を押し、ガチャッと受話器を置いた雪生は、深い溜め息をついてわたしを見た。


「……? 誰?」
「……澤井さん」
「え?! さわっ……」


『澤井さん』!!
あの一件から、わたしは当然顔を合わせていない。拒否反応が起こるとかではないけど、どんな顔していればいいのかわからない!

……だって、きっと、澤井さんからしたら、“仕事に邪魔な人間”だもの!

あからさまに動揺したわたしは、落ち着きなくそわそわと辺りを動き回る。
そんなわたしの肩に手を置いて、雪生は「気にしないで。いつもどおりでいい」とは言ってくれたんだけど……。


「よう。今回も原稿無事上げてくれてお疲れさーん……って、あぁ! 取り込み中?」


わたしやカズくんたち同様、勝手に上がってきた澤井さんが、肩に手を置いてる図をみて、冷やかすように言った。


「そんなんじゃないですけど……でも、タイミングは悪いです」


不貞腐れたように雪生が答えると、澤井さんは眉を下げて笑った。


「んだよ、ソレ! まぁ固いこと言わない! いいモン見せようと思ってきたのに」


「いいモン」?? なんだろう、いいものって。

澤井さんがカバンからなにかを出そうとしているのを見て、雪生のことのはずなのに気になってしまって仕方がない。