「美希さんが色々してくれるんでしょ?」
「え」
「もうわたし、用ナシじゃん? 雪生」


勢いよく立ちあがって言うと、アキさんはポケットから出した手をわたしに差し出した。

不思議に思いながら恐る恐る手のひらを出すと、チャリッと音を立てて落ちてくる重みを感じる。


「え……と、これは」
「ココの合鍵! 休暇取ってる間も持って帰っちゃってて。それ、美希さんにあげる」
「……アキ。勝手にオレ(ひと)のモンを『あげる』って……」
「まー、それなくてもいつでもこれそうだしね!」


ココの合鍵……? あのゆるきゃらキーホルダーの一本だけじゃなかったんだ。

鍵が自分の手の中にあるだけで、うれしくなってしまう。でも、同時に、これをずっと手にしていた彼女の存在の大きさに、不安感が拭えないまま。


「別に同じことでしょ? どうせ雪生に渡したって、美希さんとこに行くんだろうし」


あっけらかんとそういうアキさんには、醜い嫉妬心とかとは無縁なようで。
不安は感じるものの、どこか『この人と比べても仕方がない』と思わされるような。

……それに、雪生は今、わたしの手を握ってくれてるから。


「あのっ、アキさんて――」
「アキ。ほんと、今日はもう」


わたしの言葉に乗せて雪生が言うと、正面に立つアキさんはわたしたちを見て目を細めた。


「はいはい。それじゃ、また連絡するね。美希さん、ばいばい」
「あ、は……ぃ」


もっとおしとやかタイプかと思っていたけど、どちらかというと天真爛漫タイプ?

アキさんが大きく手を振って、軽やかな足取りで廊下を歩いて行ってしまったのを眺めながら、そんなことを思う。

バタン、と遠くに聞こえた玄関の閉まる音。
それを聞き終えてから、少し間を置いて雪生が口を開いた。