「――自分の友達が、必死に堪えているのを見たとき」


直感的に、そう思った。
わたしは当時(中学生)の雪生を知らないけど。でも、根本的なところっていうのはきっと変わらないと思ったから。


「……“キレちゃった”んだよねぇ。我を忘れるくらい」


痛々しい思いをしてるってわかるほど、アキさんの表情は歪な笑みで。
その後悔の色で、アキさんも忘れられない出来事なのかと胸を痛める。


「……それから――どう、なったんですか……?」


続きを聞くべきか迷ったけれど、「この仕事に就くまでの話」には至ってないし、と声を詰まらせながら聞いてみた。


「……ぜーんぶ無くなった!」
「……は?」
「全部よ? 全部……」


「全部」? それってどれを指して……?

トサッとソファに腰を降ろしたアキさんは、目を閉じながら仰ぐようにして続ける。


「そりゃあね? 命はあるわよ? 今の雪生を見てのとおり。でも、あの頃の雪生は、全部失ったって感じになっちゃったの」


詳細がわからないし、全く予想もつかない話でなにも言えない。


「表立って手を上げてしまった雪生だけが悪者で、謹慎処分。好きなバスケも辞めざるを得なくて」
「でも……その友達、とか」


思わず口を挟んだわたしを見て、アキさんは「ふ」と小さく笑った。


「『友達』……。一人も居なくなってたよ」
「……? どうして――」
「雪生がしたことで、先輩も殺気立ったまま。その根源である雪生になんか、みんな怖くて誰も近づかないでしょ」
「でも! 雪生が助けたのに!」


今度は「ふー」っと長い息を吐いて、穏やかな顔に変わったアキさん。『もう終わったこと』と言うような彼女とは違って、わたしの心はまだ収拾がついてない。