意味がわからないまま不都合な解釈をしていると、満面の笑みのアキさんが目に映る。


「スゴイよ、本当!」


今度は、ぶんぶんと手を上下に激しく振られ。うれしそうにしているアキさんだけど、未だに全くついていけていないわたしに、ようやく気付いたみたいだ。


「……あれ? わたしの人違い?」
「いえ……と、いうか、その……話が見えないのですが」
「えっ。単純な話! 昔から感情を封印しがちで、特に怒ることを嫌ってた雪生が、十数年ぶりに怒った、っていう」
「『怒ることを嫌ってた』……?」


そんなの初めて聞いた。まぁ、付き合いだしたのも、そもそも知り合ってからも、まだ日が浅いから仕方のないことなのかもしれないけど。

だけど、「昔から」とかって……やっぱり、この人は雪生の“特別”――?


アキさんの言葉をそのまま繰り返し、怪訝な顔をすると、彼女がそれに気付いたようで。気を遣ったように、少し表情を引き締めると、落ち着いた声色で問う。


「……美希さん。雪生が、この仕事に就くまでの話とかって、聞いたことある?」


雪生が、現在(いま)の雪生になるまでの話――。

そういう話は全く知らない。
女性から見ても理想の女性であるアキさんから、わたしの知らない雪生の話を聞くのが正直苦しい。でも、聞かれてしまったことには答えなければ……。

その葛藤で声が出ないわたしは、ただ首を横に振ることで答えた。


「……そう。あれはね、中学に上がった頃――」


そのときに初めて、わたしから視線を逸らす。アキさんは窓の向こうを眺めながら語り出した。その空に、過去を思い浮かべるように。