先にマンション内へと消えて行った後ろ姿を見ながら、ドキドキとした胸を抑える。
茶色いボブの、色の白い綺麗な女性(ひと)。
買い物帰りだったんだろう。買い物袋を提げて、マキシワンピを揺らしながら行ってしまった。
「ふぅ」と呼吸を整えて。今一度、勇気を出すように目を閉じる。
雪生がいなかったら、このあたりで少し時間を潰してメールを待ってみよう。
雪生がいれば――。いれば、思い切って、気になることを聞くんだ。
深呼吸を何度かして。メグやカズくんを思い出し。自分の決心を固める。
呼出ボタンを押すまでに、何分かけてるんだろう、わたし。
そんな突っ込みが冷静に出来るようになって、ようやくボタンを押した。
ピンポン、と響く音。これはいつも通り。
あとは、少し間が空いて――――。
『はい?』
想像していた間よりもずっと早く。そして、聞き慣れないトーンと声。
その応答に、『間違えた!』と焦り、動揺しながら話し出す。
「あっ、あの! わたし、707を押したつもりでっ……」
『707で合ってますけど?』
「――――え……」
『どちらさまですか?』
707……? 間違ってない? じゃあ……じゃあ、あなたは誰ですか……?
『あの?』
「あ……わ、わたし、向井美希と言って……雪生、先生の――」
『ああ、お手伝いしてくれてた方? どうぞ』
思わず自己紹介をどうしていいのか分からずに、『雪生』と呼び捨ても出来ずに『先生』と呼称して。
すると、カンタンに目の前のドアが開かれた。