「……オレ、今回の件で澤井さん嫌いになりかけたけど」


……え? 雪生が? 澤井さんを? 嫌いって……。

外崎さんのところでの雪生を思い出す。
いつも優しく、一文字で例えるなら“静”な感じの雪生が、感情を爆発させていたのを。
あの流れで、澤井さんが……?


「お門違いってやつだった。責めるべきは、冷静さを無くしかけてた自分なのに」


前屈みで足に肘を預け、指を絡ませ手を合わせる雪生は、頭を垂れて自嘲した。


「だから。オレ、もっと余裕のあるオトナになるから。澤井さんにも、美希にも。心配や迷惑掛けないように」


その態勢のまま、チラリと視線をわたしに向けて、ふっと微笑む。


「……はい。わたしも、出来ること増やして、力になりたい……と、思ってます」


いつまでも見慣れない彼の笑顔に胸をときめかせながら、小さく答えた。
わたしの返事を聞いてうれしそうな顔をした雪生は、ドサッとベッドに横たわる。ぶらんと下げてたわたしの手を取ると、目を細めて言う。


「今のままで、十分だけどね」
「――でも……もう少しくらい。それと」


握られた手を握り返す。


「わたしは、“迷惑”掛けて欲しいと思ってます」


その宣誓に目を見開くと、目を優しく細め、形のいい唇を弓なりに釣り上げて「ありがとう」と笑った。
そしてそのまま、目を閉じてしまう。


「……雪生?」


手を握られる力も弱まって。そろりと顔を覗くと、すーすーと寝息が聞こえてきた。


「……おつかれさまでした」


右手を、今度は私が握り直す。
仕事明けの雪生だ。寝て当然。なのに、わたしを優先してくれた。
雪生の体が心配なくせに、そんな“特別”がうれしくて。

気付けば、寄り添うように、わたしも眠りについてしまっていた。