「……な、んで、離れないの」
「……雪生の、顔がみたい」


彼の、少し上げた顔を覗きこむ。
わたしの目に映る雪生は、瞳に熱を帯びていて、唇はさっきのキスでなのか、少し濡れていて。乱れた髪の毛が、すごく色っぽい。

そんな姿を見て感じるコレは――――欲情?


「――バカ」
「ごめんなさい」
「今日は離さないよ……?」
「わたしなんかで……よければ」


返事を聞いた雪生は、それを合図に姿勢を正すと、いつかのときのようにわたしを抱き上げた。

足元を見ると、雪生のメガネが落ちていて。
ああ、さっきの音はこれが原因だったんだ、と今わかる。

靴も脱いでないのに、それすらも待てないとばかりに、雪生はすぐそこのドアを押し開けた。

――その部屋は、雪生の寝室。

キングサイズの雪生のベッドに、コワレモノのようにそっと降ろされた後、雪生がスニーカーに手を掛けた。


「あっ……じ、自分で」
「ねえ。『わたしなんか』じゃないって、伝わったんじゃなかったの?」
「えっ?」
「今日。見てくれたんでしょ?」


スルッとスニーカーを脱がされて、言われたことに思い出すのは立ち読みした漫画だ。


「【自信持って】って、伝わらない?」


そう言われても、なかなか素直に頷くことが出来ないけど。でも確かに、心には沁みわたる温かな言葉。

自分を好きになれるように。
そんな自分を、相手から好いてもらえるように。

だから、ひとつひとつ、素直に前向きに。迷うくらいなら、飛び込んで行ってしまえという精神で。


「いろんな美希を見て、全部ひっくるめて好きになったから」


仰向けのわたしに、しっとりとした声で囁く。


「美希の全部、教えて――――」