「ホント、狂いそうだった」


なにか痛みに堪えるように、目を細めてわたしを見る。
だから、その言葉が大げさなものなんかじゃないってこと、すぐにわかった。


「……本当、ごめんなさ――――」


謝罪の言葉すら関係ないと言わんばかりに、雪生はまた、わたしをその腕に閉じ込める。

結局、どの道を選んでも、彼にはなにかしら影響を受けさせてしまっていた。
だけど、どうしても。


「……雪生の漫画――さっき本屋で見つけたの」


あなたの仕事を優先してもらいたかった。


「なんか、初めてみたからかな……うれしかった」


出逢ったときから、あなたのペンを持つ横顔に惹かれていたと思うから。


「中を読んで……それで気付いたらココに来ちゃってた。本当は、雪生が寝て起きたあとにしようと思ってたのに」


雪生の胸の中で少し俯いて、そう苦笑した。
そして、少し冷静さが戻った頭に、ふと浮かんだ。


あれ……? 今日原稿終わったってことは、カズくんたちがまだ居るんじゃ――。
おそらく、わたしと雪生の関係は耳に入ってると思うけど。だからといって、こんな場面を目撃されたら!


「あのっ……他の人たちは」
「居ないよ。今日は用事あるって言って、解散してもらった」


即答されて、『そうなんだ』と単純にホッとした。

……ん? でも、そうだとしたら、雪生はわたしがこうして来ることを予想してた……?

見上げると、メガネの奥の瞳と視線がぶつかる。たったそれだけで、わたしの心の声が届いたようで。


「“絶対”――なんて、断言できないトコはカッコ悪いけど。でも、信じてた。オレの想いがすぐに届くはず……って」


さらり、とわたしの後ろ髪を滑らかに撫でる。その感覚にぞくぞくとしながらも、雪生の視線から逃れられない。


「オレには、この程度の独自(オリジナル)の告白の方法しかないから」


――雪生はわかってるんだろうか。