そういえば、この2カ月、本物の原稿を見ていたけど、それが載ってるのを見たことがなかった。
どんなふうに映るんだろう……。


今頃湧きあがる好奇心に、わくわくとしながら本を手に取り表紙を捲った。

一番大きく名前が書かれていただけあって、一番初めに載っていた雪生の漫画。それは単行本で、途中まで読んだことのあるものだから、入り込みやすかった。

普段、雪生の家で見ているものは、一ページずつ。それも、順不同でセリフは空白。
だから、見たことのあるシーンでも、改めて本にされているのを見てみると、全く違うように感じてしまう。

印象的な絵柄では、『こんなセリフだったんだ』とか、厚みのない白い画面だったのが、『こんなに色付けしたんだ』とか。
素人ながらにそんな感想を抱きながら、隅々と見落としのないように眺めていった。


――あ。“あゆみちゃん”。久しぶり。


勝手に親近感を覚えたその脇役のキャラに、顔が綻んでしまう。二人目のマネージャーの彼女には、心から頼れると思える相手や、自分の居場所が分からなくて不安定で。

もちろん、彼女中心のストーリーではないんだけど。


「…………あ、れ?」


すると、その“あゆみちゃん”の何気ないシーンに目を奪われる。
彼女が片想いしているバスケ部員が、彼女に言ったそのセリフ――――。


【マネージャーの手でテーピングされると、すごいしっくりくるっていうか……オレと同じ手のはずなのに不思議】


そのセリフには、記憶に残っているものがあって。

『同じ人間の手なのに不思議』。

料理を出したわたしの手をまじまじと見つめながら、雪生が言った言葉だ。
目を大きくして、何度も何度もそのふきだしの文字を追った。

これは、偶然? それとも……。