うちから雪生のマンションまでは、バスから地下鉄に乗り継いで着く。わりと遠くはない距離を、どのくらいのスピードで歩けばいいのか悩んでしまう。

――と言っても、どれだけゆっくり歩こうが、真夜中になんかなる前に着くけれど。

とりあえずバスには乗ってしまおうかと考えながらバス停へ行くと、ちょうどいつものバスがやってきて、すんなりと乗れてしまった。
車窓から流れる景色を見つめ、意味もなくドキドキと心臓をならしてしまう。


……まだ、いますぐに会えるわけじゃないのに。


それでも、あと1日も経たないで会いに行くと思うだけで、こんなにも高揚する気持ち。

実質的距離が、着々と近づくにつれ、その動悸も激しさを増していく。

十分程度乗ったバスを降り、そこからはどうにか時間を潰そうと辺りをあてもなく歩き始めた。
目に飛び込んでくるのは、すでに秋を意識したファッションを着せたマネキンや、美味しそうな匂いをさせているパン屋やケーキ屋さん。


恋っていうのはすごいもので、今までなんにも思わずに素通りしてきたこの道で、『あの服かわいいな』とか『あのケーキは喜ばれるかな』とか。そういう、“雪生”の存在を無意識に気にして歩く自分に驚いた。

好きな人がいれば、少しでも可愛く映りたいし、些細なことでも喜んでもらえたら自分も嬉しくなる。
単純だけど。でも本当に、わたしの世界が変わった。


視線を横に向けたまま歩いて行くと、一軒の本屋に辿り着いて足を止めた。


時間はたくさんあるし、本でも見て行こうかな……。


普段見ないような雑誌にも手を伸ばしたりして、一通りぐるりと雑誌コーナーを回り終えようとしたときに、一冊の本が目に入った。

“本日発売”と掲げられていたところにあったそれは、雪生の漫画が掲載されてる雑誌だったようで、大きく【春野ユキ】と名前が謳われていた。