【無事脱稿だって】。

気にしていた締切予定日に、メグからメールが来た。

たった数日なのに、こんなにも会いたい。
今まで付き合ってきた相手には抱いたことのない感情に、戸惑いよりもただただ目を閉じて彼の姿を思い浮かべる。

連絡先を知らなくて良かったかもしれない。
もし、この手の中に雪生とのつながりがあったなら、我慢できずにいたかもしれない。

【それにしても、ミキがいたときもこんなんだったの? まともに声も聞いてないんだけど。ユキ先生の】。

メグのメールの続きに、「ふ」と笑いを零してしまった。

ああ。また、“あの”雪生になってたんだな。話掛けても反応が薄くて……というか、むしろ反応なくて。
ときどき口を開けば、なんだか可愛い一面が見えたりして。

無事に原稿が上がったっていうことは、今頃あのソファに体を投げてるかな。
大きい体を丸めるようにして、気持ちよさそうに寝てるかな、きっと。

鮮明に想像できる、あの光景。
――それと、雪生の寝顔。


【ありがと。おつかれさま!】と返信すると、まるで自分の仕事だったかのように安堵の息を長く吐いた。

これからしばらく寝てるよね……。そしたら、今行くにはまだまだ早すぎるよね。
待ち受け画面の時計を見て計算する。今は14時過ぎ……ていうことは、起きるのは日付が変わるかもしれない。
だとしたら、今日じゃなくて明日にするべき……? でも……。

両手で握ってる携帯をじっと見つめ、ぐるぐると考える。
建前ではそうして計算して、明日にした方がいいと理解させても、心がそれに納得しなくて。

結局どうするか決められないまま、ただ落ち着かないわたしは家に居られなくて。
持て余した気持ちのままに、あてもなく家を出た。