帰り道。わたしの足は、雪生のマンションではなく、自分の家へと向かっていた。

本心は、今すぐにでも会いたい。
きっと、外崎さんとのこともなにか誤解とか、気になることもあるだろうし……。そういうのをひとつひとつ説明して、あの時手を取れなかったことを謝って、釈明したい。

「ふぅ」と小さな息を吐き、暗くなっていく空を見上げた。

……でも、今は――今回は、まだダメ。
それは意地になってるとか、そんなんじゃなくて……とりあえず、今回の締切を無事に終わらせて欲しいから……。

自惚れと言われればそれまでだけど。けど、この忙しい時期に、話し合いとかする時間さえも勿体ない気がして。
中途半端なまま過ごすのも、精神的にきついかもしれないけど、きっと雪生なら大丈夫――。

どんな状況だって、仕事を放ったりしない。
それは、この短期間でも、仕事に打ち込んでる姿を見てたからわかる。
そこいくとわたしは……。


「……最後の仕事なのに」


メシスタントとしての最後の締切前。たった4度しかないことなのに、それすらも全う出来ないことに、悔しい気持ちにもなる。
でも、そんなわたしのプライドなんかよりも、雪生にペースを立て直してもらいたいと思うから。

見上げていた顔を元に戻し、カバンから携帯を取り出す。そして迷うことなく、操作をして耳にあてた。


『もしもーし! なした?』


スピーカーから聞こえる、メグの変わらない明るい声につられるように笑顔になる。


「周り、静かだね。やっぱりもう“海”は終わってる?」
『うん、終わった終わったー! あっという間だったよー。ミキは?』
「……それについて、お願いなんだけど」


こんなことも、余計なことかもしれないって考えた。だけど、元々カズくんはメグに頼んだ仕事だったわけだし、おかしいことじゃないのかな? っていうのと、やっぱり頼れるのはメグしかいないと思ったから。